[論説]担い手への農地集積 大規模化リスク直視を
食料・農業・農村基本法の見直しを議論する農水省の審議会は9月の答申で、地域の持続的な農業生産のため、多様な農業人材が農地の保全・管理を行う必要性を示した。農家や農村人口の減少が、食料供給や農地保全といった食料安全保障上のリスクになるとの危機感が背景にある。
一方で、減っているのは効率の悪い零細農家で、離農者の農地は大規模農家への集約が進んでいるため問題ない。農家はもっと減っていい──。こんな意見が一部の報道などにある。全体の6%に当たる10ヘクタール以上の農家が、耕地の62%を経営しているという統計データなどが論拠だ。
極めて楽観的な主張だと指摘せざるを得ない。担い手に農地を集積・集約し、担い手が核となって地域農業を維持・発展させていく必要性は、所得の向上や農地保全の観点からも否定しない。しかし、当の担い手側から「これ以上の規模拡大は難しい」という声が噴出しているからだ。
農地の点在や条件の悪い農地、人手不足、資金など、規模拡大のボトルネックとなる要因は多々ある。規模を拡大すれば生産コストは下がるとされるが、米麦や大豆などで数百ヘクタールを手がける大規模経営でも「ある一定のところから下がらなくなった」という。
大規模化に伴うリスクも顕在化している。例えば、病害虫の防除だ。近年、効果の高い農薬が普及しているにもかかわらず、ウンカや斑点米カメムシ類といった水稲害虫の被害が目立つ背景には「一つの経営体が管理する水田の数が増え、適期の防除が難しくなっている」(ある県の病害虫防除所)との指摘がある。
今夏は記録的な猛暑で米の高温障害が全国的に問題となった。対策には小まめな水管理や追肥などが重要だが、同様の理由から「手が回らない」という農家は少なくない。
規模を拡大すれば、従業員の育成や管理など、経営者に求められる能力は変わる。大規模経営ほど投資額も大きいが、近年は生産資材の高騰やコロナ禍など想定できない環境変化もあり、経営リスクは増す。事実、畜産をはじめ、大型経営の行き詰まりが相次いでいる。土地利用型農業でも同様の事態となれば、一度に大量の農地が宙に浮きかねない。今後、大詰めを迎える基本法の具体化に向けては、こうした実態を踏まえた冷静な議論が必要となる。