[論説]アグロエコロジー元年 環境配慮を農業の本流に
世界における食料生産は、化学農薬や肥料の登場によって大幅な拡大を遂げ、商業的なモノカルチャー農業に発展した。こうした中、限られた資源の収奪や生態系の破壊に危機感を抱き、世界各地で持続可能な農業の必要性を訴える機運が高まった。それが1920、30年代に生まれた農学と生態学を掛け合わせたアグロエコロジーだ。
アグロエコロジーが提唱する持続性とは、生態系を脅かさずに健全で、経済的にも実行可能で、社会的に公平であることが三つの柱。その全てが保障されることを指す。
日本には「農業生態学」として58年に紹介されたが、70年代に広がった有機農業運動と重なる部分が多く、あまり普及しなかった経緯がある。
農水省は2014年、「環境保全型農業センスアップ戦略研究会」を設置。副題に「アグロエコロジーな社会をデザインする」が付いていたが、当時の研究会メンバーは「アグロエコロジーとは何か、本格的な議論は全くなかった」と振り返る。愛知学院大学の関根佳恵教授は「現在でも、英語由来の言葉ゆえに『難しい』などの反応がみられるが、実は、日本の有機農業運動などに通底する部分がある」と指摘する。
難しい概念のように映るが、災害や気候変動が激しい時代において、有機農業や土づくりを主体とした持続可能な農業について、科学的に裏付けたこの学問の価値を、見直す必要はある。
フランスは14年、慣行農法から有機農業やアグロエコロジーへの転換を推進する法案を採択した。国連が17年に提唱した「家族農業の10年」、18年の「小農の権利宣言」の中でもアグロエコロジーへの転換を強調している。
気候変動に伴う自然災害が世界中で絶えない中、日本は21年、既存の政策を大きく転換し「みどりの食料システム戦略」を提唱した。22年には「みどりの食料システム法」を施行、輸入依存を減らし、環境に負荷をかけない取り組みを支援する。環境配慮の農業は世界の潮流となった。
「アグロエコロジー~持続可能なフードシステムの生態学」(農文協)では、「厳しい未来の状態が現実になることを誰も望んでいない。(中略)フードシステムの方向転換が早ければ早いほどよい」と指摘する。24年をアグロエコロジー元年としたい。