[論説]飼料用米の増産 新品種の育成に力注げ
通常国会に提出される食料・農業・農村基本法の改正案と関連法案で、今年の農政は年初から大きなヤマ場を迎える。基本法見直しの要点として挙げられているのが、国民一人一人の食料安保の確立であり、食料の安定供給を担う生産性の高い農業の育成である。日本の食料自給率は、カロリーベースで38%という低さだ。飼料自給率となると、さらに下がって25%にとどまる。食料安保を確かなものに近づけるには、飼料の増産は必須である。
農水省は2022年末に「みどりの品種育成方針」を打ち出し、おおむね5年後の育種目標を示した。温室効果ガスの排出を減らせることや、化学農薬の使用量低減になるなど、「みどりの食料システム戦略」につながる品種育成の方向性を示している。この中で「食料安全保障に資する品種育成」も掲げた。
環境や国際価格の変動に対応するため、輸入依存度が高い麦や大豆などは「品種育成による収量向上が求められている」とするが、ここでは飼料用米の品種には触れていない。飼料作物関係では、湿害に強い子実用トウモロコシと、夏の暑さに耐える牧草の育成が目標となっている。
昨年末に日本飼料用米振興協会が開いた意見交換会では「多収品種を育種する機関がなくなった」との指摘が出た。飼料用米として作期分散を狙える早生と、殺虫剤の残留性を防げる耐虫性品種を望む声が相次いだ。長年の水田農業での蓄積を生かせることから、子実用トウモロコシより普及しやすいとみる。
品種の育成には通常、10年単位の時間がかかり、資金と労力が負担だった。このため公的研究機関の中には、育種から撤退する例もあるという。だが、撤退してしまってはこれまで育てて、まだ世に出ていない貴重な育種素材が無駄になる。
品種登録の出願件数はピークの07年度には1533件あったが、20年度には740件と半分以下にまで落ち込んだ。日本の育種力が落ちているのではと懸念する。
他産業と同じく、農業でもロボットやデータ利用の研究に、予算と人員を充てる傾向が強い。スマート農業推進へ法制化の動きもある。しかし品種が果たす役割の大きさは変わらない。スマート化の陰で、新品種の育成をおろそかにしてはならない。