[論説]農業水利施設の損壊 事故・災害の備え急げ
24日時点で農水省がまとめた農業関連被害のうち、水路、ため池を含む農業用施設被害は2590カ所になった他、防災重点農業用ため池170カ所、農業ダム2カ所で損傷を確認し、損傷箇所の保護や水位を下げるなどの対策を講じた。
被災地では、農業用水向けのパイプラインも破損した。日常の保全の簡便性などからパイプラインでの配水が多くなっている。だが地下にあって見えないこともあり、20~40年とされる標準耐用年数を超過した老朽化による突発的な事故や、今回の地震のような災害時の破損にどう準備するかが、改めて問われた。
農水省によると、21年時点で受益面積100万ヘクタール以上の基幹的農業水利施設のうち、標準耐用年数を超えたのは4324カ所で11年時点に比べ約2倍。年間400~500カ所で標準耐用年数を超過している。水路での標準耐用年数超過は2万3206キロで11年比で約1・5倍に増えた。
2年前に愛知県で発生した明治用水頭首工の漏水事故は老朽化も一因とされた。田植え時期に発生し、約5400ヘクタールの田畑への水の供給が止まり、一時は稲作への影響が懸念された。今回の地震でも、今年の稲作への影響が心配されている。事故や災害による破損への対策は急務だ。
岸田文雄首相は主要政策の一つとして「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化の推進」を掲げてきた。これまでの農業水利施設の防災、減災、強靭化対策が能登半島地震でどう機能したかの検証が必要だ。今は被災した住民への対応が優先されるべきだが、今後、専門家も含め実効ある取り組みを求めたい。
24年度予算案でも農業水利施設の長寿命化や災害に備えたため池の撤去、耐震化など、保全や防災対策にさまざまな助成事業を計上している。農業水利施設に関わる農家、土地改良区、JA、行政などがこれらの事業を効率的に活用し、老朽化した施設の長寿命化、災害への事前対応を進めていこう。
併せて、万が一災害や事故で農業水利施設の利用が困難になった場合に備え、どこから水を手当てし、早期復旧につなげるのか、緊急事態に備えた「事業継続計画(BCP)」の策定も急ぐべきだ。事故や災害はいつ起こるか分からない。関係者はそのことを忘れてはならない。