[論説]学校給食の無償化 地産地消広げる好機に
自民党は2023年3月、少子化対策として小中学校の給食無償化を提言。無償化に向けた課題を整理するため、文部科学省は1年かけて都道府県・市区町村の1794教育委員会・事務組合を対象に調査を実施した。
調査によると、小中学校の全児童生徒の給食費を完全無償化した自治体は、全体の3割に当たる547と6年間で7倍に増えた。多子世帯などを対象にした一部無償化を含めれば4割を占める。都道府県間の給食費(食材費)に1・4倍の開きがあることも分かった。「異次元の子育て政策」を掲げる岸田政権として無償化を進めるべきだ。
ただ、課題は多い。同じ都道府県でも市区町村によって給食費は違う。地場産農産物の利用の有無や調理法、給食数などに違いがあるためだ。一律無償化によって、地場産の農産物や有機食材を積極的に給食に取り入れてきた自治体や関係者の取り組みを後退させてはならない。
ウクライナ危機や円安で食料品の価格が高騰し、学校給食を頼りにしている子どももいる。健やかな子どもの育ちを等しく応援するのは国の責務だ。さらに学校給食を通して地域の農業や農村の現状、環境問題を考えるきっかけにしたい。
日本農業新聞は23年から「給食百景」を連載し、地域の多様な食材を生かした給食を紹介している。ケチャップなどの加工品まで県産にこだわった長野市の給食や、地場産ジビエ(野生鳥獣の肉)を食材に採用する大分県中津市など事例は40を超す。国は、こうした地域ならではの食の多様性や文化を尊重した上で、無償化に向けた制度を設計すべきだ。まずは国による給食支援へ踏み出してほしい。
最大の課題は財源だ。文科省は、年間給食費の総額を約4832億円と算出する。新たな財源の確保は容易ではないが、文科省をはじめ、こども家庭庁、農水省、厚生労働省など関係省庁が連携し、横断的に取り組むべきだ。
給食の在り方を考えることは、地域農業の維持や自給率向上、食料安全保障を考える好機となる。費用だけを考えて輸入食材で賄うのではなく、地域の農家が作った農畜産物を使うことが持続可能な地域づくりにつながる。子どもたちの健康を支え、命を育む給食支援は、日本の未来への投資と考えたい。