[論説]家族農業のスマート化 導入後の伴走支援が鍵
「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」が成立し、現場への技術導入が本格化する。法律は名前が示すように生産性向上が主眼であるはずだ。導入したら終わりではない。現場が新技術を使いこなし、目に見える結果につながらなければ意味がない。
スマート農業技術は、全体の作業体系や管理方法とも関連が強い。作業の流れをがらりと変えなければならない場合もある。導入コストも大きく、システム更新に定期的な費用が発生する場合もある。生産資材の高騰が続く中、導入前に具体的な目標を立てた上での判断が好ましい。
一方で導入後は、先の目標を踏まえ、効果を検証しなければ投資が無駄になる。結果次第で、仕事全体を見直さねばならないこともある。
新たな支援制度の創設は、首相が大規模経営を視察した際の発言だ。新技術と接する機会が多い大規模経営と違い、中小規模の家族経営では、コンピューターをはじめとするデジタル機器に不慣れな人もいる。十分な導入効果が得られない場合も想定される。不慣れから生じる苦手意識で、かえって心にゆとりがなくなった経営者もいる。蓄積データの活用など導入後の対応が生産性向上の鍵を握る。
中央畜産会は「家族経営における畜産DX推進事業」の中で、DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術を活用した変革)を家族経営に普及させるためのガイドブックを作った。目標設定の重要性やメーカーのサポート体制の確認など、事前の準備もさることながら、導入後の評価体制を重視した内容といえる。畜産農家を対象にした手引書だが、耕種農業にも生かせる考え方である。
導入には補助事業を利用することが多いため、事前に都道府県の機関やJAなどと連携したチームで検討するが、この体制を導入後も生かしたい。手引書はメーカー以外からの助言を受けられるよう、専門機関や導入農場による地域研究会を立ち上げるよう促す。農家と伴走する組織が導入効果を検証し、評価するよう改善指導に生かす。
中小規模の家族経営農家は、農村社会を支える中核である。農家が新技術を使いこなすことで農村は活性化する。地域に根ざした組織が、導入後の効果を分析・検討できるような制度を求めたい。