[論説]復旧半ばに能登豪雨 命、暮らし 全力で支えよ
気象庁は20日夕、北陸と東北で警報級の雨が降ると発表、21日午前に大雨特別警報を出して警戒を呼び掛けた。だが、雨量は同庁の想定を超え「これほど降るとは」と担当者も言葉をのんだ。石川県輪島市では21日朝、1時間雨量の最多記録を2倍近い121ミリの猛烈な雨を観測。珠洲市も同85ミリの観測史上1位を記録した。22日までの72時間雨量もそれぞれ546ミリ、403ミリと過去最多の雨量を200ミリ前後も上回った。
国土交通省によると、1時間当たりの雨量が100ミリを超えた場合、土壌の吸水や水路の排水が追い付かず、土砂災害と洪水の危険が飛躍的に高まる。農地や水路の見回りは絶対にやめてほしい。
能登半島の国道や県道で起きた土砂崩れは30カ所を超え、道路の寸断で孤立した集落は115カ所に上る。県によると、その半数以上が1月の地震でも孤立を余儀なくされた地区で、仮設住宅の一部も含まれている。地震発生の際は、孤立集落への食料支援が遅れたり、滞ったりした。高齢化率が約5割の中山間地域だけに、命を守るために一刻も早い支援が求められる。
地震、豪雨のダブルの災害に見舞われた能登をどう復旧・復興につなげるか。珠洲市若山町で避難所運営を支える元農水省職員の本鍛治千修さんは、災害を踏まえ「ここまで甚大な被害を被った以上、被災前の姿に戻そうと考えるのではなく、大胆な政策転換を図るべきだ」と指摘する。
具体的には被災した珠洲市、輪島市、能登町、穴水町の奥能登地区の2市2町が統合し、機動的な行政組織をつくること。二つ目はインフラの早期復旧、三つ目は、復興事業を大手企業ばかりではなく地元企業に担わせること。そして四つ目が「通い農業」。地域のコミュニティーを大切にしながら集合型の復興住宅を建設し、通勤スタイルで農作業に励む。五つ目は被害の程度が軽かったり、被災を免れたりした空き家を自治体が借り上げ、家を必要としている被災者にあっせんすることだ。こうした策を、国を挙げて早急に着手しない限り「故郷を出ていかざるを得なくなる」と強調する。
今こそ、幾多の大震災、豪雨の教訓を生かす時だ。心まで孤立してしまわないよう、全国から温かいメッセージを送ろう。そして国を挙げて全力で復旧・復興を支えよう。