[論説]戦後80年とノーベル賞 食を通し平和考える時
日本被団協の受賞理由について、ノーベル平和賞の選考委員会は「核兵器を使うと壊滅的な結果になるという認識を広げるため、精力的で世界的な運動が生まれた」と、広島と長崎の被爆者による草の根運動を評価した。
「その中で、核兵器の使用は非人道的で受け入れられるものでないとする強力な国際的規範『核のタブー』が、形づくられた。核兵器が二度と使われてはならないと訴え続けてきた広島と長崎の被爆者の証言は、唯一無二のものだ」とし、肉体的な苦痛や、つらい記憶を伴いながら平和に貢献した被爆者をたたえた。
日本被団協が提案し、世界の原爆被害者が呼びかけた「核兵器の禁止・廃絶を求める国際署名」は1370万を超え、国連へ提出された。こうした各国の民意が、2017年7月に122カ国・地域の賛同で採択された「核兵器禁止条約」につながった。
ノーベル平和賞の受賞スピーチをした日本被団協の代表委員、田中熙巳さん(92)は1月、長野市で開かれた記念講演会で「原爆が投下されて80年となる25年でなく、24年の受賞となったのは、世界情勢を踏まえて25年では遅いと判断した、と選考委員の一人が話していた」と語った。核兵器が使われそうな危機的状況から、核兵器廃絶の機運をさらに高めようという委員会の意思がうかがえる。
日本政府はどうか。石破茂首相は、受賞を「極めて意義深いこと」としながらも、条約批准に後ろ向きで、オブザーバー参加もしないのはあまりにも消極的ではないか。核抑止論を拒否し続けた日本被団協の立場が国際的に評価されたことで、「平和は核兵器によって保たれている」とする核抑止論に「待った」をかけた意義は大きい。
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で3年。紛争がいったん始まれば、終えるのは難しい。食料や農業を取り巻く環境も一変する。第2次世界大戦中、国全体が飢えに苦しんだ歴史を忘れてはならない。日本被団協代表委員の一人で、農業を営む箕牧智之さん(82)は「私たちは戦争を体験したからこそ、米一粒でも大切にする。米一粒のありがたさを知ることが命や食料を大切にし、平和を願う思いにつながる」と発信する。
唯一の被爆国であり、原爆投下80年の今年、食を通して平和を考える契機としたい。