[論説]学校給食の無償化 地産地消が根付く契機に
日本農業新聞は23年4月から、全国各地の学校給食と地域とのつながりを伝える「給食百景」を連載している。きっかけは、20年以降の新型コロナの感染拡大と22年2月に始まったウクライナ紛争の影響による困窮者の増大だ。給食費を払えない世帯が増える一方、資材高騰で農業も存続の危機に立たされている。
本紙取材班が22年度に給食を無償化した自治体数を調べたところ、コロナ前の76から451と全市町村の3割まで急増していた。国による無償化の議論が始まったこともあり、一律無償化をきっかけに、学校給食を通して食材を誰が作っているのかなど、地域の農業や農家への理解促進につなげたい。
24年12月に47都道府県を一巡し、1月からは台湾、インド、チベット、韓国の給食も伝えた。3月で80回を迎え、目の当たりにしたのは、日本の中にある「多様性」だった。世界に誇る日本の学校給食の価値を再確認すべきだ。
政府は、学校給食を教育活動の一環と位置付けているが、法律上は自治体の任意となっており、国とは一定の距離がある。その結果、全国各地で使用する食材や献立、調理方法に創意工夫が生まれた。日々の1食には農家をはじめ調理する人の子どもたちへの願いが込められ、多様な景色が広がっている。この多様性こそが給食の財産である。
政府は23年6月に「こども未来戦略方針」を閣議決定し、給食無償化実現に向けた課題整理に着手した。文部科学省は1年にわたる全国調査の後、貧困家庭のほとんどが無料になっていることから「格差是正の観点に乏しい」とし、給食のない学校もあることから「公平性に問題がある」と指摘した。さらに無償化には4832億円の安定財源が必要と試算し、少子化対策にも懐疑的な見方を示す。
だが、人口減が続く地方自治体の負担を軽減し、地域の個性を生かし、地産地消を通し農業を活性化させることができるのが給食だ。給食無償化は石破政権が重視する地方創生の一環でもある。
有機農産物を給食に活用すれば、生産面積や多様な担い手の確保につながる。農水省や地方自治体、JA、農家、栄養教諭ら学校関係者、保護者など国民各層を巻き込みながら、子どもの健やかな成長を国を挙げて応援する機運を高めたい。