[論説]高まる熱中症リスク 気温上昇前から対策を
「高温リスク」は、農家の命を脅かす新たなリスクとして危険性を増している。気象庁と文部科学省が公表した「日本の気候変動2025」は、温室効果ガス削減などの追加対策が取られない場合、産業革命以前には100年に1回しか起きなかった異常高温が、21世紀末には約99回とほぼ毎年起こると予測する。
世紀末までに70年あるからと安心できる状態ではない。既に100年に1回の高温は、20世紀末の時点で約10回に増えており、2037年ごろまでには約38回に増えると見込まれている。
野外での作業が多い農家にとって、警戒したいのが熱中症だ。農水省のまとめによると、23年には37人が農作業中の熱中症で亡くなった。22年以降、増え続けている。気象庁によると、今夏も全国的に気温は高い見込みで、暑さに不慣れな今の時期から備えておく必要がある。
命を守るには、水分や塩分の補給、保冷剤を使った体温調節などに加え、専門家らが有効策に挙げるのが「暑熱順化」だ。夏前に一定期間、汗ばむ程度のウオーキングやラジオ体操などをして、暑さに体を慣らし、発汗量を増やしておくことで、熱中症になりにくくする。
国が主導し、国民全体に熱中症対策を働きかけることも重要だ。政府の「熱中症対策実行計画」は6月までの暑熱順化や梅雨明け後の注意喚起など、夏前から国民への情報提供と適切な行動を呼びかける。農水省は高温時の農作業はなるべく避け、単独で作業するのも控え、小まめな休憩や水分補給などを促している。こうした基本的な対応が着実に実践されるよう、改めて周知に力を入れてほしい。
厚生労働省は6月から、農業法人を含めた事業者に、労働者の熱中症対策を義務付ける。取り組みが不十分な場合は罰則も設ける。炎天下で作業する農家の命を守る安全教育を充実、強化しよう。
農水省農林水産研修所つくば館も毎年6月ごろ、農家らを指導する自治体や民間団体などを対象にオンライン研修を実施する。専門家が熱中症の予防法や水分補給のポイントなどを解説し、今年も予定する。熱中症対策を現場で指導する人材育成を加速させる必要がある。ベテラン農家はもちろん、新規就農者ら幅広い世代に対策を周知し、命を守る体制を整備しよう。