[論説]日米交渉に産地反発 農家の声を受け止めよ
関税を巡る日米交渉で、焦点の一つになったのが米の扱いだが、日本政府は、米国産米の輸入拡大を交渉材料としない方向で調整に入った。
米の価格上昇が社会問題となり、備蓄米を放出してもなお価格が下がらない状況に消費者の不満が高まり、主食用米の輸入に賛同する世論も出ているが、国内の米需給に影響を与えるだけでなく食料安全保障の強化に逆行し、断固として受け入れられない。
広島県の山間部で米を作る農家は「米は農村の生命線。農村にとって命を交渉カードにすることに等しく、到底認められない」と憤った。
声なき声に耳を傾け、光の当たらないところに光を当てる。それが政治の役割ではないか。政府は、農家の声に真摯 に耳を傾ける必要がある。
石破茂首相は交渉に当たり「自動車を守るために農業を犠牲にする考えは全くもっていない」と明確に否定。自民党の森山裕幹事長も、米輸入拡大に慎重な姿勢を示し、江藤拓農相は「主食を海外に頼ることが国益なのか」と指摘した。政治家の言葉は重い。産地は注目している。
ウクライナ危機以降、資材価格は高止まりし、農家は所得を確保できず、離農に歯止めがかからない。その結果、生産基盤の弱体化は進む。こうした農村の実態を、政府は放置してきたのではないか。米不足で価格が上昇したとはいえ、増産できる農家はどれだけ残っているだろうか。
物価高に苦しむ消費者にとって、米の価格上昇は家計を直撃する問題で、政府の対応も問われている。だが、食を支える生産現場をないがしろにした議論は許されない。長期にわたる米価低迷を直視することなく「輸入米が増えるから米の価格が下がる」といった意見は、あまりに短絡的だ。北海道の農家は「米が安くて農家が苦しんでいる時、政府は何もせず、多くの消費者が無関心だった」と指摘、「子どもに安心して稲作経営を継げとは言えない」と嘆く。米の価格はいつ下がるのか、だけに関心が集まる中、価格の向こうにある農業農村の現状について、生協をはじめ消費者に理解を促し、共感を得る必要がある。
食を海外に依存することは命を依存することに等しい。石破政権は農家の切実な声を心に刻み、強気の姿勢で交渉に臨んでもらいたい。