[論説]茶の担い手確保 繁忙期の労働改善急げ
鹿児島茶市場の9日の初取引は平均価格が1キロ4137円、最高値は同2万1308円と令和に入り最も高くなった。18日の静岡茶市場は、平均価格が同1万1218円、23日のJA全農京都宇治茶流通センターでは同1万7098円と、いずれも好調なスタートを切った。
一方、課題は担い手不足だ。2020年の全国の茶農家の戸数(主産県)は1万2325戸と、2000年の5万3687戸から激減。ここ20年間で4人に3人が離農した。茶農家の減少を食い止めるには、再生産できる所得の確保が第一だ。茶は、生産費のうち肥料と燃料の割合が高く、ウクライナ危機以降、価格高騰が長期化し、経営は厳しい。コスト上昇を反映した適正な価格形成は待ったなしで、消費者の共感が得られる取り組みも欠かせない。
加えて茶は収穫適期が短く、出荷するには茶葉を摘採後、酸化を防ぐため、ただちに蒸してもんで乾燥させる荒茶加工が必要になる。このため、収穫期の茶農家は睡眠時間をぎりぎりまで削って収穫・加工の作業に入るため、ワークライフバランスが実現しにくい状況にある。余裕をなくし、事故も起こりやすい。
政府や研究機関は規模拡大やスマート農業による生産性向上には熱心だが、繁忙期の茶農家の働き方を抜本的に改善し、担い手を増やす支援や研究を求めたい。
茶生産をゼロから始めようとすれば、農地や農業機械、製茶機械の調達に多額の資金が必要となる。茶園を造成してから、安定した収量を確保できるようになるまで5年ほどかかる。行政には、未収入の期間を考慮した支援の拡充を求めたい。初期投資を抑えるには、離農する農業者から、農地や機械を丸ごと引き継げる第三者継承が有効となる。行政は、幅広い情報発信に力を入れてほしい。
明るい兆しは、輸出が好調なことだ。海外では抹茶がブームとなり、緑茶の23年の輸出額は292億円と4年連続で過去最高を記録した。輸出量のシェアで4割を占めるのは米国だが、トランプ政権による相互関税が水を差さないよう、輸出国の分散など万全な対策を求めたい。若者らへの消費拡大も重要だ。
車窓からもえぎ色の茶畑の景観をただで楽しめるのは、農家が茶を作っているからだ。その価値が、適正に評価されなければならない。