[論説]和牛肉の新たな価値 サシ以外の評価確立を
経済協力開発機構(OECD)などが2021年に出した需要予測によると、鶏肉消費は大きく伸びるのに対し、牛肉の伸びは小幅。先進国ではむしろ減る傾向となった。国内では、コンビニの鶏ムネ肉加工品の売り上げが伸び、“脂肪離れ”が起きている。脂肪の多い和牛肉は今後、需要を確保できるだろうか。
日本食肉消費総合センターが3月にまとめた調査では、5年前と比べ赤身肉を好むようになった人は12・6%になった。元からの赤身肉好きを合わせた「赤身肉派」は34・3%。対して5年前より霜降りを好むようになった人は6・4%。もともとの霜降り好きと合わせても「霜降り派」は26・2%にとどまった。
和牛肉は見た目にも美しく、サシで価格がほぼ決まる。ただ、消費者に芽生えた赤身志向を考えると、他の評価基準も考えるべき時に来ているといえる。
サシの度合いは脂肪交雑基準(BMS)ナンバーで表されるが、ナンバー10以上はロース芯の脂肪量が50%を超え、最高値のナンバー12は脂肪が6割を占める。脂肪が多い分、赤身は少ない。赤身肉に多く含まれているタンパク質やアミノ酸含量も減るため、和牛独特のうま味が低下しないかと懸念される。
着目したいのが、全国肉用牛振興基金協会がまとめた「和牛肉の新価値観構築事業」の成果だ。不飽和脂肪酸などの脂肪の質、サシのきめ細かさ、粗タンパク質含量などが味に関わりがありそうだとみる。これらの数値で味を“見える化”できれば、消費者は自らの価値観で肉を選べる。本流のサシで評価する市場流通とは違った、新たな価値観で動くマーケットを構築してもいいのではないか。
米国が22年から取り組む気候変動を抑えた農業振興策は、新たな価値観に基づくマーケットの構築を目指す。具体的には、温室効果ガスの発生を抑える間断かん水で栽培した米、土壌流亡を減らす不耕起栽培トウモロコシなどの生産・流通増に向け、生産と流通、加工、消費の間でのパートナーシップ提携を支援する。参考にならないだろうか。
サシ偏重からサシ以外の基準で評価した牛肉へ、それを求める消費者をつなぐ市場・物流の構築を促せないか。進め方を研究し、新たな消費の流れを取り込みたい。