[論説]食育月間 農の未来考える契機に
推進大会は、食にまつわるトークショーやセミナー、調理体験など通し、幅広い世代が楽しみながら食について考える機会を提供するのが目的。食育活動表彰では日本型食生活や減塩、食品ロスの削減、朝の欠食解消など、多彩な取り組みが表彰された。
農家個人の活動として入賞したのは千葉県君津市の鈴木芳昭さん。学校給食への食材提供をはじめ、大豆「小糸在来」を使った座学、栽培実習、みそ造りなど、年間通して種まきから加工までを教えている。「地域の子どもたちに地元の農産物を食べてもらい、農業の魅力を知ってもらいたい」との思いが原点。地道な活動は30年以上続いており、農家だからできる取り組みとして評価された。
食育活動はこうあるべきだ、というマニュアルはない。成果を数値で測れるものでもない。自ら体験することで楽しさや面白さ、驚きが得られる。何をどう食べたいのか、背景にどんな農の営みがあるのか。食卓の向こうに思いをはせながら、選ぶ力を養う機会にしよう。取り組みは大きくなくていい。プランター栽培からでもいい。家庭や地域、職場などで小さく始めよう。その輪が市町村やJA、学校、企業などとの連携で広がっていけば、なおいい。
食を支える国内の農業は、生産資材の高止まりが続き、コスト増が農畜産物価格に転嫁されず、厳しい状況にある。加えて温暖化による異常気象で収量や品質の不安にさらされ、食料自給率の低迷は続く。世界では人口増や紛争による食料難、異常気象による干ばつや水害など食を巡る問題は山積みだ。
こうした課題に対し、家族で「なぜだろう」「どうすれば解決できるだろう」と話し合う機会をつくれないだろうか。未来を担う子どもの柔軟な発想力、想像力を期待したい。国民一人一人が毎日の食を通して、農業や農村の未来について思いを巡らせるきっかけをつくろう。
食育基本法は、食育を「生きる上での基本」と位置付けている。食べることは生きることそのもの。農業を身近に感じ、親しみが湧けば、食卓と畑の距離も縮まるだろう。農業を目指す若者だって生まれるかもしれない。小さな取り組みが家庭や地域へと広がれば、持続可能な農業・農村にもつながっていく。食と農の結びつきを強めよう。