[論説]地域づくり協100に 労働力の補填ではない
同組合は、四つ以上の小規模事業者で構成し、農業など複数の仕事を組み合わせて年間通して働ける場を提供する。組合が移住者ら職員を無期雇用し、出資した事業者に一定期間派遣する仕組みだ。過疎地域や離島など人口急減地域を対象に、国と市町村は運営費を助成し、一定の給与水準を確保できる。
「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律」が施行されたのは2020年6月4日。以後、農家、農業法人、飲食店、製造業者、介護事業者など地域の多様な事業者が出資して立ち上げた。総務省によると、100組合のうち、農業関連の派遣先があるのは89で、全業種の中で最も多い。JAが同組合の組合員になっているケースもあり、地域農業の再生にも貢献しているといえる。
行政が支援しながら地域で設立・運営し、各事業者は労力不足の解消につながり、派遣利用料金も行政の補助があるため、一定程度に抑えられるメリットがある。組合の職員は地域住民だけでなく移住者が想定されており、移住者の働く場づくりになっているのも特徴だ。
組合を構成する事業者からは、「農繁期に手伝ってもらえるので、ありがたい。地域にも活気が出ている。他の事業所と横の連携も出てきた」と歓迎する声が多く上がる。一方、組合で働く職員を募集しても、集まらないなど課題を抱える組合もある。
組合によって差が出るのはなぜか。組合で働く若い移住者に寄り添ったサポートができるかどうかが、鍵となる。キャリアにつながる研修や賃上げ、要望に添った柔軟な働き方など、さまざまな工夫が実践されている。自治体や組合で課題や工夫を共有し、学び合うことが重要となる。
組合の名称に「地域づくり」が含まれていることを重く受け止めてほしい。農業は人手不足が深刻だが、働く職員を労働力の補填としか考えないようでは持続性がない。そうした組合に、若い移住者は魅力を感じないだろう。
起業だけでなく地域のなりわいを第三者にバトンタッチする継業、副業、テレワークなど多様な雇用形態、働き方が広がる。同組合も、農村の新たな働き方の一つといえる。農村再生につながるよう多様な人が関わり、知恵を絞った運営が求められている。