[論説]牛乳月間 「モ~1杯」で酪農応援
生乳は需要によって用途が変わる。まずは飲用。いわゆる牛乳だ。飲用の需要が少ないときは、長期保存ができる脱脂粉乳やバターなどの乳製品に加工される。ただ、飲用向けの乳価が最も高いため、牛乳の消費が多いほど、酪農家の収入は多くなる。
ただ、こうした仕組みが新型コロナ禍によって深刻な影響を受けた。感染拡大に伴う学級閉鎖や外食業の不振で、牛乳や乳製品の需要が低迷。多くの酪農家が乳牛の頭数を減らし、増産に向けたこれまでの努力は報われていない。
加えてウクライナ危機、円安で穀物相場が上昇し、生産コストも膨らんだ。これにより離農は加速し、2019年から5年で全国で3000戸の酪農家がやめた。24年4月現在の戸数は1万305戸と、1万戸割れが目前に迫る。これは食卓の危機だ。誰でもどこでも、牛乳が手に入る時代ではなくなりつつある。
窮地の酪農を救うのは、消費者の応援だ。Jミルクによると国内の生乳生産量732万トンのうち、牛乳など飲用に仕向ける量は約半分の389万トン。いつも飲んでいる牛乳をコップ1杯から1杯半にするだけで、単純計算で200万トン近い消費になる。実際に行動する人が3人に1人だと約60万トン、5人に1人では約40万トンの消費拡大になる。毎日、意識して飲むことで酪農家を応援しよう。
牛乳月間では、牛乳を飲みたくなる“仕掛け”がたくさん用意されている。各乳業メーカーは牛乳のおいしさや機能性についてイベントやインターネット、テレビのCMなどで発信する。交流サイト(SNS)上には、「こんなに牛乳を飲んだ」「乳製品を食べた」といった書き込みも増えている。
酪農家も行動する。全国酪農青年女性会議などは、16日の父の日に合わせ、「父」と「乳」の語呂合わせで牛乳を贈ろうと呼び掛ける。仕事をするお父さんに、牛乳で元気をつけてもらうのが狙いだ。
酪農を取り巻く状況は依然として厳しい。円安に加え、産地から生乳を運ぶ流通経費や加工費、飼料や肥料、農業機械などの価格も総じて値上がりしている。国が議論を進めている、生産コスト上昇分を販売価格に転嫁する「適正な価格形成」への期待は高いが、すぐに価格転嫁が実現されるわけでもない。
牛乳をはじめ国産の農畜産物を選び、消費することが産地支援につながる。さあ、今日は牛乳で乾杯だ。