[論説]日中韓FTA交渉 農業への悪影響避けよ
外務省によると、ソウルで5月27日に開かれた3カ国の首脳会談では、RCEPを「日中韓FTAの基礎」とし、「自由で公正な質の高い互恵的な日中韓FTAの実現に向け、交渉を加速するための議論を続ける」との共同宣言が採択された。斎藤健経済産業相は同28日の閣議後会見で、交渉加速の合意を受けて「RCEPより高いレベルのルールを含める観点から議論したい」とし、「3カ国の間で、自由で公正な貿易・投資ルールを強化するべく取り組みたい」と強調した。
RCEPとは22年1月に発効した包括的な連携協定のことで日中韓、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国、オーストラリア、ニュージーランドが参加する。日本の農業を守るため米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の重要5品目の他、鶏肉・鶏肉調製品、中国からのタマネギやニンジン、シイタケなどは関税撤廃・削減の対象から除外された。農林水産物の関税撤廃率は、対中国が56%、対韓国は49%で、環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)の82%より低い。
ただ、RCEPの発効によって多くの中国産農産物の関税が撤廃された。中国の現地メディアによると、日本向けに関税が撤廃された中国産農産物の割合は、RCEP発効前は20%だったが、発効後は60%まで増加したという。
農水省がまとめた農林水産物輸出入統計からも、実態がうかがえる。統計によるとRCEPが発効した22年、中国産農産物の輸入額は前年と比べて27%増え、23年にはさらに前年比5%増の約9500億円に上った。今年4月までの累計も前年同期比15%増の約3314億円となった。
特に、目立つのが野菜(生鮮・冷蔵)の輸入増だ。輸入量は22年は前年比5%増、23年は同3%増の46万トン。今年4月までの累計も前年同期比13%増の15万トンとなった。世界的に物価高騰が進む中、RCEPによる関税引き下げに加え、割安感が影響したとみられる。韓国産の輸入も同様の傾向がうかがえる。
日中韓FTAの交渉日程は不明だが、農業関係者の中には日本農業への影響を懸念する声もある。国内の農家は、資材のコスト増を価格に転嫁できず苦しんでいる。
これ以上、農業を犠牲にすべきではない。