[論説]伐採期迎えた杉 花粉症減らす植林急げ
林野庁がまとめた2023年度の森林・林業白書によると、人工林の約6割が伐採期の樹齢50年を超えた。戦後植林した杉が多い。同庁は、この伐採期を利用し、花粉の少ない杉への植え替えを加速する考えだ。
花粉の少ない杉苗木の生産は、10年前に比べ10倍にも増え、ヒノキでも同様の開発が進んでいる。約30年後にはスギ花粉の発生量を半分に抑え、花粉症の軽減を目指す。
課題の一つは、伐採後の植林を確実に進めることだ。白書では、最近の伐採後の植林が4割にも満たないことを明らかにした。山元立木価格が安く、植林意欲が高まらないことなどが原因とみられる。植林意欲につながる価格になるよう、国産材の需要拡大へ官民挙げて取り組まなければならない。
人材獲得競争が激しさを増す中で、林業従事者を確保することも重要だ。「スマート林業」による機械化も含め、若者や女性に魅力ある作業への転換を急ぎたい。植林の主要な「担い手」である森林組合の経営を強化し、家族経営の林家や林業従事者の生活を安定させたい。
伐採と植林の森林整備が進まず高齢林が増えると、二酸化炭素(CO2)の吸収量が減る可能性がある。50年のカーボンニュートラルの実現は世界的要請だ。所有者が分からず放置されたままの森林の整備を急がなければならない。市町村主体で整備する森林経営管理制度が19年4月に導入され、利用する市町村が増え始めた。加速したい。
こうした取り組みの財源が森林環境税だ。今月から個人住民税均等割の枠組みで年1000円を徴収し、年約600億円が市町村や都道府県に配分される。貴重な財源を無駄なく利用する必要がある。
地方自治体への配分は、別の財源で19年度から先行して始まった。森林整備に効果を上げ始めているが、都市部の自治体を中心に使い残して基金に積み立てる事例が相次いだ。22年度も1割が配分の全額を基金にため込んだ。政府は、本年度から森林の多い山村に優先的に支払われるよう配分方法を改めたが、必要な改善は速やかに行うべきだ。
森林は、多様な生き物を育み、水のかん養や防災など多面的機能も持つ国民の財産。政府は、森林を支える山村を国民全体で支援し続ける重要性を今後も強調すべきだ。