広々した作業場。室内には、出荷用の段ボール箱がたくさん積まれている。従業員はコンテナに入ったナスを1本ずつ取り出し、袋詰めにしていく。単純作業でも丁寧に続ける。
ファーム代表の北村浩彦さん(57)は「仕事への頑張りが理解される中で働くことで、社会とのつながりを再確認できる」と考える。
ファームは2014年、10年間引きこもりで生活に困っていた30代の男性を受け入れた。農作業が男性の性格に合っていたことや、市の社会福祉協議会なども男性を支援したことなどが奏功し、3年後に就農できた。
ファームでは、生活困窮者や引きこもりの人を積極的に受け入れる。罪を犯した触法者を雇用し始めたのは21年。法務省や保護観察所、検察庁、弁護士と連携し、刑務所から出所した人や執行猶予のついた人を雇い入れた。覚醒剤関連や放火、窃盗などの罪で逮捕された人たちだ。
当時、同地区の農業現場では担い手が少なく、一方で福祉の現場では就労先がなかなか見つからなかった。そこで、行政や病院、JA高知県、民生委員など多くの組織・職種で構成された安芸地区のネットワーク会議で、「生きづらさを感じる人と一緒に地域づくりをしていこう」という機運が高まった。
現在、ファームでは、5人の触法者が農業に挑戦する。
出所者への偏見は根強いものがあるが、北村さんは「地域で理解を深める必要がある」と指摘する。ネットワークには不動産業者も加わっており、住居のあっせんをするなど、地区全体でサポートをしている。
北村さんによると、罪を犯す人は自分で生きていく力が弱い人が多いという。ファームでは、生き方を教えることに主眼を置く。理解のある中で働くことで社会とのつながりができ、仕事の定着につながっている。罪を犯した人からも農業で自立し再起できるよう、ファームや地域全体で支援を続けている。