まきたすぽーつ 1970年生まれ、山梨県出身。芸人や俳優、文筆家、ミュージシャンと幅広く活動する。著書に「雌伏三十年」(文藝春秋)など。
生きるために食べる、というより、食べるために生きる、という感覚でいる。日常の中で一番生き生きとする瞬間が、食べ物のことを考えているとき。僕は「空腹をめでる」と言っているんですが、自分の胃袋に耳を澄ましていると、はっきりと「腹がすいた」という瞬間がある。頭の上でくす玉が割れたような気分になるんです。そうしたら、次に何を食べようかと脳が動き出す。それが一番楽しい。
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2023年の4月から、東京と山梨県丹波山村の2拠点生活を始めました。妻がこの村を好きになり、「引っ越したい」と言い出して。人口は500人程度、一番近いコンビニでも車で40分かかるような所ですよ。農業は、入り口にも立ってない段階。家の前の小さな庭で菜園みたいなことをしています。村に原木マイタケを作っているチームがいるんです。ほとんどが一度村を出たUターン組で、彼らに聞いたら「めっちゃ楽しいです」って即答でした。マイタケはスーパーなどに出回っているのとは全然違う。ワイルドで味の複雑さがちゃんと分かるし、香りも強い。村に帰ってきて、地の利を生かして栽培し、価値を生む。その作業が楽しくて仕方がない、と。人生の最高の楽しさみたいなものを、農業から感じているわけじゃないですか。
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山梨県甲斐市のサトイモ「やはたいも」のPR大使もやっています。過去の川の氾濫でできた土壌という、土地の個性にのっとってできている芋で、一度作ると土地を休ませないといけない。効率は良くないが、出来上がったものを食べると、ものすごくおいしい。自分が見えていたものは、本当に世界の一部でしかない。予測不能だったり、よく分からなかったりするものが身近にある中で、自然の潜在力を利用しながら、それに左右されたりもしながら、“実り”を体験している。それは、文化として面白いことなんじゃないかと、初めてそういう思いを持っています。
ジャンクフードもいまだに好きだけど、「もう無理かも」と思うタイミングが結構早くなってきちゃって。無理くり工業化して作られたものに、体がフィットしてこなくなってきたことに、だんだん気付いているんですよ。誰しも食は一生もの。体に吸収されていくものを生産している農業従事者のおかげで、農業の大事さや劇的な面白さに気付くきっかけを得られました。

25年ぶりの食料・農業・農村基本法改正が予定されている2024年。日本の食や農の価値について、改めて考える年になる。著名人に食や農への思いを聞いた。