
「機械で切るより野菜の味が良いですよ」。毎朝、調理員と包丁を手にする栄養教諭の江口敏幸さん(64)が笑顔で言った。
同小は全国でも珍しい「産地直送システム」で食材を調達する。北海道から沖縄まで産地の漁港や市場を訪ね、宅配便で送ってもらう仕組みを築いた。調理は手作業だから農産物に「規格」はなく、農家は喜んだ。
国産食材を生かす和食が多い。みそ汁はさば節、昆布、煮干しで交互にだしを取り、味覚を育む。2年前、食品ロスについて児童と話した時、江口さんは「食べ残しだけでなく、だし殻や果物の皮など調理ごみも減らさなきゃ」と思った。
だし殻は肥料化を検討したが「食べることが重要」とふりかけにした。リンゴは皮ごとスライスして使う料理を考案した。児童と「SDGs(持続可能な開発目標)メニュー」と名付けた――。
児童生徒数が80万を超える全国最多の東京の学校給食は多様だ。うち23区は公立小815校全てが自校調理式だから、学校の数だけメニューがある。都は13年前、地域全体の食育に指導的役割を担う独自の栄養教諭制度を導入した。その1期生である江口さんのような画期的な取り組みが、給食の風景をより楽しく豊かにする。
6月22日、SDGsふりかけの日。給食係の児童が湯気の立つ麦入りご飯にふりかけた。砂糖、しょうゆ、酢で味付けられた香りが広がった。4年の浅水悠希さん(9)が「エコで節約でご飯も進む」と言う通り、SDGsふりかけの日は食べ残しが半減する。「作り方を教えて」と保護者からの要望も多い。
校舎1階ホールの大きな日本地図には「今日の食材産地」が一目で分かるようになっている。見て食べて覚える社会科の教材だ。
子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。