
梅雨の晴れ間が広がった6月25日の日曜日。小田原市にあるJAかながわ西湘の施設に県内各地から親子70人が集まった。地元農家の協力で9年目を迎えた田んぼの生きもの調査。午前はJA、午後は全農の主催だ。
午後の部に参加した30人が、ズボンの裾をまくり上げ、素足や靴下をはいたまま田植えを終えたばかりの水田に入った。生き物をすくい取る網と虫籠を手に、足取りは苗を踏まないよう慎重だ。ひざ下まで埋もれ、親も子も最初はぬかるみから抜け出せない。
「足を踏み入れるたび、根がぶちぶち切れている感じ」。参加者の間から不安の声が上がる。「大丈夫。空気が入って成長に良い側面もあります」。全農ビジネスサポートの長屋圭佑さん(39)ら講師陣が笑顔で言った。
南足柄市の小学4年生、平山修平さん(9)は家族5人でやってきた。目が慣れると、数ミリの虫からオタマジャクシまで、大小さまざまな生き物がうじゃうじゃと見えてくる。修平さんは次々とすくい取り、自慢げな表情を見せた。「いっぱい生き物がいるけど、どこから来たんだろうね」。父平二郎さん(38)が修平さんにさらりと問いかける。

全国の田に生息する生き物をデータベース化する琵琶湖博物館(滋賀県草津市)によると、2020年11月時点で6305種が確認されている。30人が30分ほどで水田から上がり、たらいに生き物を移して数えると、チビゲンゴロウ、ヌマエビ、コガムシ、カワニナ、ミジンコ、マルタニシ、アメンボなど32種がいた。生物多様性条約に参加する日本は、30年までに陸と海の各30%を生態系として保全する国際目標に従う。その一翼を担うのも田んぼだ。
「お米を育てるためには何が必要ですか?」と長屋さんが子どもたちに尋ねた。「肥料」「カモ」「水」「昆虫」などと続いた後、修平さんが「食べてくれる人!」と言った。周囲の親たちが大きく拍手を送った。
「お米が好きな人」の質問には、「大好きになった」「給食でもお代わりしたい」と元気な声が返ってきた。田んぼに戻された生き物たちが、ほっとしたように水の中へ帰っていった。
文部科学省の調査によると、神奈川県内の米飯給食率は公立小学校99.8%、公立中学校82・3%。同県学校給食会やよこはま学校食育財団が県内33市町村に納める給食米は年間6348万食に当たる約5000トンで、うちJA全農かながわとJAグループ神奈川が全集荷量の9割に当たる2400トンを提供する。全体の半数を占める。
全農によると、給食用米は価格が定まっているため、近年の米価下落とは裏腹に農家の収入安定にもつながっているという。
子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。