

地元農家やJAと連携し、給食に有機食材をふんだんに使う千葉県いすみ市の夷隅小学校。6年生児童20人がおしゃべりしながら給食を食べていた。砂塚悠雅さん(11)は「話しながら食べるとよりおいしく感じる」。担任教諭の鈴木達也さん(26)は「給食の時間はこうでなくちゃ」と会話の輪に加わった。
いすみ市は学校給食を軸にまちづくりを進める。2015年、小中全14校で市産の有機米を導入し、おかずの食材も環境に配慮して栽培されたものに変えた。子どもたちは家庭で話し、親たちは市産米を買うようになった。地元で販路を固めた後、ブランド米として全国で売られ、農家の所得も向上した。
一方、少子化に伴う人口減は止まらなかった。市は22年10月、政府の臨時交付金で給食無償化に踏み切った。物価高に苦しむ子育て家庭を支援するためだ。交付金を使い終えた4月以降は、年1億円超の自主財源を投じ、給食の無償を続ける。
23年度予算は市制施行以降2番目の規模。太田洋市長は「市が使えるお金の4割を子育て関連に充てた。給食も一つで、地域ぐるみで子どもを育てる環境にしたい」と語る。
「ごちそうさまでした」。食べ終えた20人が給食に関わる全ての人たちに感謝した。給食に有機米を提供する農家の矢澤喜久雄さん(75)が言う。「僕らが子どもの頃、みな平等に貧しかった。今は経済格差が広がり、自宅で十分に食べられない子が増えているのに、その姿が見えにくくなっている。給食の公共性が増している」
子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。