

標高1000メートルの山々に囲まれた町は東北有数の酪農地帯だ。学校給食は低温殺菌牛乳を瓶入りで出し、おかずも無償提供する。一方、ご飯は児童・生徒が持参する「持ち飯」方式。理由が深い。
町はかつて、おかずだけを給食センターで調理し、ご飯は業者に委託する完全給食を実施していた。ところが10年前、業者が倒産し、代わりの業者も見つからず、炊飯施設の建設はかなわず、ご飯を持参してもらうしかなかった。
保護者は衝撃を受けたが、子どもらは喜んだ。たくさん食べたい子は山盛りを、少食の子はそれなりの量を持って来る。炊き込みやふりかけなどご飯の食べ方はさまざまだが、差別感が出ないよう原則、白飯に限った。
「ピンチはチャンスでした」。町教育委員会の石角則行・教育次長がそう語る。全国で朝食を食べない子どもが増える中、町でも問題となっていた。ところが、家庭で毎朝炊飯するようになると朝ご飯を食べる習慣がなかった子も食べるようになった。心身ともに元気な子が増えた――。
鈴木重男町長は「食と子育て」を町政の根幹に置く。町内の県立高校にも町は小中校と同様に副食給食を提供する。選択式の有償だが、生徒のほぼ全員が給食を選ぶ。教員にも好評で、葛巻小の佐々木美江子校長は「先生たちも持ち飯。おかずや牛乳は本当においしい」とうれしそうだ。
給食時間のチャイム。児童らが「見て見て」と弁当箱を開けた。揺れるランドセルの中でご飯は隅に寄ってしまう。その形が毎日変わるのが楽しい。一粒残さず食べると実菜さんから100点をもらえるひかるさんは「今日も弁当箱はぴっかぴかだよ」。
子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。