
「トマトの皮むきは、頭に十字の切り込みを入れて熱湯に20秒くぐらせましょう」。7月24日、越前市のブランドトマト「紅しきぶ」を使ったミネストローネの調理撮影。純白の調理服を着たマスク姿の調理員が言った。
紫式部ゆかりの同市には「しきぶ」を冠した農産物が多く、給食の地場産使用率は重量ベースで5割を超える。今年の番組テーマは「地場産食材を楽しむ」。赤米入りひじきご飯(南越中)、白山ポークの開花丼(白山小)、牛肉と生きくらげの炒め物(味真野小)、内豆汁(花筐小)など、自校で調理する小・中16校16品を4日間かけて調理、収録した。

きっかけは20年3月から3カ月続いた一斉休校だった。わが子の昼食を突然作ることになった親たちの困惑の声に、南越中の調理員、齋藤良子さん(52)らが「おうちで簡単に作れる給食メニューを動画にしよう」と市教委に提案した。
市教委はすぐに丹南地域で7割以上の世帯が加入する「丹南ケーブルテレビ」に相談。同社も賛同し、双方が経費を持ち寄って5月上旬、提案から1カ月の速さで制作が始まった。責任担当者の齋藤さん、市教委の有定真奈美さん(57)、同社の西村真琴さん(49)の3人はそれぞれ「子育て中に『お昼ご飯どうしよう』と悩んだ」体験を持っていた。
出演する調理員は毎年16校から2人ずつ計32人。1品7分半に編集した番組を毎日3回放送する。過去3年分48品はユーチューブの公式チャンネルに公開した。子どもが好きなメニューを調理員自らが作る他の料理番組にはない強みで幅広い人気を集め、アフターコロナの「5類」移行後も継続が決まった。
7月撮影の今年分16品は9月から順次放送される。「子どもが『今日の給食おいしかった』と言っても、親は何がおいしいのか分からない。番組が家族共通の話題になり、笑顔が広がれば、これほどうれしいことはありません」。齋藤さんが調理員全員の気持ちを代弁するように言った。
市民の声に応え自校・直営式堅持
福井県越前市の学校給食は一部の中学校を除いて全ての小・中学校が「自校・直営式」だ。学校の中に調理室があり、調理も市職員の調理員が担う。
一方、政府は公共サービス改革法施行の2006年以降、市町村に「行政の効率化」を要求。学校給食もより経費がかかる自校・直営式は減り、給食センターでまとめて調理する「共同式」、調理を民間委託する「委託式」が多数派となった。
越前市でも委託式が議論されたが、多くの市民が反対。市も近年、調理員の正規雇用を増やすなど自校・直営式を堅持する姿勢だ。

子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。