

10月23日正午の香川県綾川町立滝宮小学校。教諭の問いかけに、ランチルームに集まった6年生25人が「はーい」と手を挙げた。この日、滝宮小は5、6年生が自分で作った弁当を持って来る「弁当の日」だ。
6年の武上那月さん(12)は、朝6時半に起床。アスパラガスのベーコン巻き、から揚げ、卵焼きを30分で完成させた。「茶色が多かったので、彩りに気を付けた」。前日に作り置きした小松菜とニンジンのごまあえやトマトと一緒に弁当箱に詰めていった。
弁当の日は、献立作りから買い出し、調理、片付けまで子ども1人で行う。自立を促すため「親は手伝わない」が決まり。2001年に同小校長だった竹下和男さん(74)の発案で始まった。給食を残す児童に「食べ物への感謝の気持ちを持ってほしい」と考えたことがきっかけだった。
同小を起点に弁当の日は全国に広がり、現在までに2400校が実施。映画にもなった。宇都宮市では08年から全小中学校でスタート。宮崎県は条例で奨励し、22年度は小学校の94%、215校が取り組んだ。
家族がかまぼこ店を営む6年の堀部架琉さん(12)は、黄色い花形の天ぷら(さつま揚げ)を作った。すりつぶしたサツマイモを魚のすり身に混ぜ、金型で抜いて油で揚げた、「秋の紅葉をイメージした」力作。
母の亜希子さん(50)は「『すり身とサツマイモを混ぜたらどうなるだろう』と言って、以前より頑張って工夫していた」と話す。
弁当の日は今年で23年目。同小卒業生の橋本衣理さん(32)は、弁当の日で知った料理の楽しさを子どもにも伝えようと、2人の息子が幼い頃から一緒に台所に立っている。
「私の時は母が良かれと手伝ってくれて『なんでしたんよ』とけんかになった。今は逆の立場で、わが子に『何もせんといて』って言われてます」
食材通じて社会知って 発案した元滝宮小校長 竹下和男さん

同小に赴任した頃、給食の時間も食欲がなさそうな子どもが増えていた。食材への感謝、給食を作ってくれた人への感謝、この二つの「ありがとう」の気持ちが分かる子どもを育てるのが校長の仕事だと思い、「弁当の日」を設けた。
一人で弁当を作ると、子どもは次第に社会を認識するようになる。弁当は作れたけれど、このお米も野菜も作っていない。魚を捕まえた人がいて、その人が乗った船を造った人がいる。鍋やフライパンを作った人がいる。電気やガスを届ける人がいる。そういう人がいるおかげで台所で食材を使って弁当を作れたんだと気付く。
「弁当を持ってこられないかわいそうな家庭の子がいる」との反対の声もある。でも、食事は1年365日×3で1095食あり、給食は年180回前後。つまり約900回は家庭に任せられている。年5回の弁当も持ってこられない「かわいそうな子」はちゃんと食べられているのか。弁当の日を実施しないのは、「かわいそう」な状況を見て見ぬふりをすることにならないのか。
最近はそうした子どもが全国で増え、緊急避難的な形で子ども食堂が広がっている。ならば「自分で作ることができる人を育てよう」という取り組みは、子どもの未来にとってプラスになるはずだ。
子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。