

「百合北郎、ありがとう。おいしくなってね」。同高2年の古橋叶望さん(16)ら動物科学科の生徒が10月下旬、父牛と祖父牛の名を冠した和牛を送り出した。経済動物だと割り切っても、別れはつらい。入学から世話した百合北郎は11月、給食のサイコロステーキ2800食になった――。
栃農給食は、同高教諭と同市教育委員会担当者の「農高産を給食に使えたらいいね」という雑談が発端だ。同市と同高が結ぶ地域振興の包括協定に基づいて起案され、21年度から事業化された。
同高は食肉の他、野菜、果物、みそなど給食に必要な大半の食材を手がける。ただ、メニューは年度初めに立案されて納品日が決まる一方、農産物は天候などに左右されるため、その日に最高の物を出すのは容易でない。それでも昨年は和牛が最高等級のA5を付けるなど生徒の頑張りは高く評価され、食材提供が全校に広がった。

食材が給食となった8日、各校に歓声が響いた。岩舟中学では3年の石塚匠さん(15)が「サイコロステーキ、サラダ、みそ汁、ご飯、全部おいし過ぎる」と感動し、横田真央さん(15)も「瞬く間に食べ終わった」。
「栃木市は農業の町。子どもが将来、農業を職業の選択肢の一つにしてくれたら」。発案者の一人、市教委保健給食課の伊東美華さん(51)が給食に込められた思いを語った。
子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。