

2006年から続く、年に1度の「りんご一籠運動」の日。町が「子どもにリンゴを毎日食べさせたい」と給食用に無償提供を呼びかけたところ、町内の若手農家グループ「みどりの会」を中心に提供の輪が広がり、農家の子どもらも学校に持参するようになった。
以来17年余、毎年秋から春までの毎日、皮付きリンゴを出してきた。皮と実の間に栄養が最も豊富だからだ。
運動を始めた理由は何か。当時の教育長で、無償提供も続けている小笠原愼逸さん(85)が打ち明けた。「町の子がリンゴを食べていなかったのです」
父さんの味、僕が届ける

青森県鶴田町で今年の「りんご一籠(ひとかご)運動」が行われた師走の早朝。町唯一の小学校、鶴田小にリンゴを満載した籠を抱えた児童が次々と登校してきた。リンゴは玄関前の大きな箱に移されていく。同小1年の澁谷康元君(7)も、持参したリンゴ5キロを移した後、「早く食べたいな」と言った。
秋から春の毎日の給食にリンゴが出されるようになったのは2001年、町の食に関する調査が発端だった。
朝ごはんを食べないで登校する児童・生徒が全国平均を大幅に上回る1割を超え、肥満も増えていた。リンゴは医食同源だとPRする町の子どもの大半が「リンゴを食べていない」事実も分かり、衝撃が走った。
町は03年、月に1度、皮付きリンゴを出し始めた。「もっと食べたい」の声が上がったが、1食当たり給食費は10円上がる。町は04年、全国初の朝ごはん条例を制定して朝食を推奨。給食のリンゴ代も全額補填(ほてん)し、毎日出すようになった。
町の厳しい財政事情を知った若手農家グループ「みどりの会」や保護者が05年、無償提供に乗り出した。町は06年、農家の児童にも自家消費用を持ってきてと呼びかけると、運動の輪は広がった。今年も集まったリンゴは1・6トンを超えた。

「子どもたちのおいしいが何よりの誇りです」と澁谷君の父真平さん(45)。青森市のホテルマンだった9年前、リンゴ農家の両親の高齢化と遊休農地の増加から「故郷を守ろう」と妻早苗さん(44)とUターンし、1・6ヘクタールの「しぶたに農園」を営む。長男が小学校に上がった6年前から無償提供している。
一方、給食リンゴの大半を支えるみどりの会は、会員1人が50キロ前後を提供する。会長の田澤貴裕さん(32)は「リンゴのおいしさを知ってもらい、将来の担い手が生まれれば、うれしいですね」。
給食の時間が始まった。2年生の教室で記者が「リンゴ好き?」と尋ねると、「はーい」。小さな手が児童の数だけ高く上がった。
子どもの命を守る学校給食が注目を集める。全国の多様な取り組みを伝える。